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横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)928号 判決 1985年7月25日

原告

亡金井正次訴訟承継人

金井百合子

右同

外六名

原告

田辺広枝

原告

矢作正雄

原告

大島昭

原告

佐藤民治郎

原告

小金沢鉄治

右原告ら訴訟代理人

新美隆

大谷恭子

被告

横浜市

右代表者市長

細郷道一

右訴訟代理人

末岡峰雄

右指定代理人

池田宏

主文

一  原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

一請求原因1及び2の事実並びに同3の(一)のうち、月曜日から金曜日までの午後四時から同五時までの間の勤務が原告ら学校管理員の本来の労働時間と一体をなしているものであるとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

二まず、原告らの請求のうち時間外労働に関する割増賃金の請求は、原告ら学校管理員が法四一条三号所定の断続的労働に従事する者に該らないことを前提とするものであるので、この点から判断をすすめる。

1  <証拠>を綜合すると、学校管理員の職務内容は被告の制定した学校管理員服務心得によつて定められており、それによれば学校管理員は、

(1)  教育財産を火災、盗難その他の災害から予防するため、別に定める順路に従い、次の各号に定める時刻に学校の内外を巡視しなければならない。

(イ) 昼間勤務 八時三〇分、一三時、一五時三〇分

(ロ) 夜間勤務 一八時、二一時、六時三〇分

(ハ) 半日勤務 一三時、一五時三〇分

巡視にあたつては、災害防止のために必要な警戒取締りを行なうものとするが、次の各号に掲げる事項については、慎重かつ確実に処理し、不備を見出したときは適正な応急処理をするとともに校長に連絡をしなければならない。

(イ) ガス栓、電気器具スイッチ、配電盤、燃料保管庫、給食調理場の熱源、ストーブ、灰皿等火災発生源となるおそれのある場所の点検

(ロ) 戸締り、施錠等の点検

(ハ) 消火器、防火用水、防火装置等の応急器材が所定の位置に整備されていることの点検

(2)  学校の構内に無断で侵入する者がある場合には、直ちに退去を促し必要に応じて校長に連絡しなければならない。

(3)  外来者との応接並びに文書、郵便物、電信、電話等を収受し、校長の指示による処理をしなければならない。

とされているほか、学校に火災、盗難その他の災害が発生した場合の被害拡大防止の応急措置、及び災害発生の恐れがある場合の校長への連絡その他学校管理に関し校長が命令する事項がその職務内容となつていることが認められるところ、<証拠>を綜合すれば、原告らが実際に行つている校内巡視も、教職員の退校時間などとの関係で多少の違いはあるにしても、右服務心得の定めと概ね同じ時刻に同じ回数を以つて行われ、その際教室の戸締りや校舎出入口等の施錠(朝の巡視の際は解錠)ないしは戸締りや施錠等の確認(学校によつては児童や教職員が施錠等を実施する建前になつていたり、施錠に関しては電子ロックシステムで集中管理されているところもある)をなしていること、右巡視に要する時間は一回目で四〇分ないし五〇分程度(二回目以降はより短時間で済む)で、巡視を済ませた後は管理員室などで読書をしたり、テレビを見るなど自由に過ごしていることが認められる。右認定に反する証拠はない。

原告らは、校内の巡視は児童の下校を促したり校内での事故および非行を防止する目的のためにも随時行つている旨主張し、原告大島昭の本人尋問の結果中にはこれに副う部分があるが、前認定の事実によつて明らかなとおり学校管理員の校内巡視は専ら教育財産の保全管理のために行わるべきものであつて原告らもこれについては十分知悉していることは前掲各証拠に照らし認め得るところであるから、右原告大島の供述部分は措信できない。仮りにそのような目的のために巡視をしているとすれば、それは学校管理員の職務外の行為であるから、学校管理員の職務が断続的か否かについての判断には斟酌することのできないものである。

また、来校者との応接、文書・電話等の収受については、<証拠>を綜合すると、原告らの勤務時間中でも教職員が在校している間は教職員が行つているので、原告らは教職員の不在の場合においてこれを担当するにすぎず、特に運動会や遠足等の行事の際は教職員が前日より学校に泊つたり当日早朝に出勤して問い合わせの電話に対し応対をする場合もあり、学校によつては予め作成した緊急連絡網を使用して事態に対処する仕組になつているところもあること、被告において学校管理員の日誌をもとに学校管理員による昭和五六年度及び同五七年度の外来者との応対、文書等の収受及び電話収受の頻度を横浜市立の小、中学校及び養護学校五二校について調査したところ、外来者との応対、文書の収受は年間平均して一校四二件程度、電話の収受は同二件程度その外教員、児童との応対が同二四件、仮眠時間中の応対が同二件程度であつたことが認められる。更に、<証拠>によれば、学校開放と称される学校施設利用制度は、被告小中学校等の校庭、体育館、図書室等の施設を学校教育活動に支障のない範囲で一般市民に開放するもので、事業は各学校地域住民により組織された運営委員会が自主管理、自主運営するというものであつて、器具の貸出・収納、利用場所の巡視、施錠及びその確認等の施設の管理及び指導は右運営委員会に設けられた管理指導員によつてなされるものであり、学校管理員たる原告らの職務としては専ら管理指導員との施設の鍵の受け渡し及び施錠の確認等であることが認められる。

さらにまた、夜間勤務についても、<証拠>によると、被告市立小中学校における学校管理員の夜間勤務中に受けた災害は、自己過失によるものをも含め昭和五三年度は一件、同五四年度は〇件、同五五年度は二件であつたにすぎず、夜間勤務が特に危険を伴うものではないことが認められる。

2 以上の事実によれば、原告ら学校管理員の業務は、右の外災害時の通報義務(この実際の頻度については認め得べき的確な証拠はない)を含め、且つ、夜間勤務における仮眠時間(午後一〇時から午前六時まで)が純然たる休憩時間でないことを考慮に入れてもなお、実労働時間が少なくて手待時間が多く、労働密度が稀薄で、身体及び精神の緊張が比較的少ない断続的労働と認めざるを得ない。

もつとも原告らの労働時間は土曜日の午後から日曜日を経て月曜日の午前に至る間は四三時間三〇分に達するものであり、年末年始の休庁期間にはさらに長時間の勤務となることにはなるが、前記認定の学校管理員の労働の実態に鑑みるときは、右の如き拘束時間の長い故を以つては、その断続的労働性を否定することはできないところである。

すなわち、原告ら学校管理員は、法四一条三号にいう断続的労働に従事する者というべきである。

3  被告が、昭和五三年一月六日、横浜市立学校に勤務する学校管理員が断続的労働に従事する者として法四一条三号の規定に基づき横浜南労働基準監督署長に対し適用除外許可申請をなし、同月一七日その許可を得たこと(抗弁1(二))は当事者間に争いがない。

4  然らば原告らは法第四章及び第六章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されないから、時間外及び休日労働の割増賃金請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく(もつとも月曜日から金曜日までの午後四時から午後五時までの時間は、<証拠>によれば学校管理員の勤務しない時間であつて、別に委嘱するパートタイマーが校長の指示する事項について執務することになつており、原告らは自ら志望して右時間におけるパートタイマーになつたものにすぎないことが認められるから、右時間を学校管理員としての勤務又はその延長と認めることはできずしたがつて管理員としての労働時間に算入できない。)失当として排斥を免れない。

三次に深夜労働の割増賃金請求について判断する。

1  被告が昭和二七年五月二七日付市立学校長宛二七教委第一二〇五号「学校管理員の採用、解雇並びに服務について」と題する通知において、学校管理員に支払う賃金に深夜勤務手当を含む旨を明示したことは当事者間に争いがない。

2  被告は、右通知の趣旨に副つて原告ら学校管理員に対しては、専ら夜間勤務を給与額決定の対象として深夜勤務手当を含んだ金員を給与として支払つている旨主張するので、この点について勘案するに、<証拠>によれば、原告らの一回(時間によらないで一勤務を一回とする)の勤務に対する報酬の単価は、昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までは昼間勤務、夜間勤務とも金三九二〇円、土曜半日勤務金一九六〇円で、同五六年四月一日以降は昼間勤務、夜間勤務とも金四一五〇円、土曜半日勤務金二〇七五円であつたことが認められるところ、右単価が夜間勤務を対象とし且つ深夜勤務手当を含む趣旨のものとして決定したか否かについては、直接これを認め得べき証拠は存しない。しかしながら、<証拠>によると、被告における現行の学校管理員の服務規定では、学校管理員に対する報酬については従前の例によるとしているので、前記昭和二七年の通知の「学校管理員に対する給与は深夜勤務手当を含むものとする」趣旨はそのまま受け継がれていることが認められるから、特段の反証のない本件においては、前記の賃金単価は、右規定の趣旨に従つて定められたものと推認することができる。

3  したがつて原告らが被告から昭和五五年四月一日以降同五七年三月三一日までに受けた賃金には深夜勤務手当分が含まれているから、原告らは被告に対し既払賃金以外にさらに深夜割増賃金を請求することはできないものといわなければならない。

よつて原告らの深夜労働割増賃金に関する請求も理由がない。

四結論

以上の次第で、原告らの請求は、すべて理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官安國種彦 裁判官山野井勇作 裁判官小池喜彦)

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